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この手に、ちからを。 | |
木々の枝が乱雑に折れてゆき、ドレスの裂ける音が聞こえた。 着地した瞬間、地面が割れた。 ミカエルが気が付くとそこは 光が全く 遮断された空間だった。ミカエルは自分が失明したのではないかと疑うほど、闇に圧迫されていた。 たまらず一緒に落ちた従者の名を呼ぶ。 「カタリナ、カタリナ!返事しろ!」 「ここにおります…」 「無事か!」 「はい…ミカエル様は…」 「ああ、この通りだ!」 「良かった、ご無事で…」 立ち止まった。 何て事だ。 カタリナは胸の辺りまで土砂で埋まっていた。その先にはまだ大きな岩が積みあがっていた。それなのに、ミカエルが無事なのを知ると喜んでさえいるのだった。ミカエルの中で何かが壊れ、足元がぐらつく思いがした。気丈な彼女は痛みをこらえて笑顔で続けた。 「この命、…に、ロアーヌに捧げておりますから…」 「今、助け出す」 「いけません、ミカエル様は大切なお方…!」 カタリナはとっさに出た自分の言葉に驚き、言い直した。 「―ロアーヌの次期侯爵としての大切な御身、危険にさらされては…」 「そうだ、私は次期侯爵だ。」 だが今は。そういって、カタリナを一瞥し自分のこぶしを握った。 「一人の、一人の人間としてお前を助ける。必ずな。」 彼は自分のとった軽率な行動を悔いた。自分の生い立ちは彼女には何ら関係がないのだ。出来心とはいえ、邪な目で見たことをミカエルは懺悔したかった。 近くに寄って改めて確認すると、カタリナは大きな岩と岩との間に挟まれていて圧迫されてないようだった。思ったよりも深刻な事態でないことに胸をなでおろす。しかし、いつ崩壊するかも分からない状態には変わりなかった。 懸命に岩を自分の周りから取り除こうとする青年の姿を見て、カタリナは彼の名前を呟きついにすすり泣き始めた。 目を見開き、一層力をいれた。一枚岩の表面に爪がめり込み軋んだ音をたて、指に痛みが走った。爪が割れたようだった。その破片が、岩の鋭い欠片が、ミカエルの肉に突き刺さるが構わずさらに力を加えていく。ついに血が吹き出て表面を上滑りするまでの量が流れた。それでも爪を立てて持ち直し、声をあげ、その顔を歪ませ、押し続けた。美麗な顔にみるみる青筋が隆起し、血管がちぎれそうな程に浮かび上がる。 そうしてほんの少しだがようやく岩は動いた。 |